幅広い音楽性とオリジナリティ溢れるプレイ・スタイル、そして確かな演奏テクニック。何より、熱いプレイヤー魂で様々なアーティストと共演を果たしている森俊之は、今、日本で最も忙しいキーボーディストの一人ではないだろうか。スガシカオ、宇多田ヒカル、椎名林檎、山崎まさよし、宮沢和史、CHEMISTRY、大貫妙子、bird、THEATRE BROOK等々手掛けたアーティストは枚挙に暇がない。プレイヤーとしてはもちろん、サウンド・プロデュースからアレンジまでこなす傍ら、自身のバンド「Sun Paulo」や「As We Speak」でも精力的に活動。そんな彼がレコーディングやステージで使う鍵盤楽器は、ローズ、ウーリッツァー、クラビネット、ピアノやオルガンといった純然たるキーボード。言うまでもなく、楽器として確立された名機ばかりである。オルガンに関しても最大限サウンドにこだわり、彼のシビアな耳に適ったものは当然限られてくる。彼がプレイする数少ないオルガンのひとつであるCX-3や、オルガンに対する熱い想いを語ってもらった。
音楽を始めたのはいつ頃ですか?
クラシック・ピアノを3才の頃から始めて、幼稚園くらいから電子オルガンも習うようになりました。教材がビートルズやカーペンターズなどポップスがメインだったんで、クラシック・ピアノでツェルニー弾くより断然楽しくてのめり込みましたね。そんな感じでピアノと電子オルガンはずっとやっていました。中学になると同じクラスにドラムを演ってる奴がいて、意気投合してバンドを始めました。でもキーボードは女の子に任せて僕はギターを演ってたんですけどね。
キーボードを担当するようになったきっかけは何ですか?
ロック少年だったので、サンタナ、ツェッペリン、ディープ・パープル、ウイングスなんかをコピーしてました。サンタナのバンドにトム・コスターというキーボーディストがいましてね。当時は機材名まで理解してなかったけど、彼が弾くハモンドやミニ・ムーグ、ローズとかのサウンドに強く惹かれまして。「あ、キーボードもギターに負けずにこんなに格好いいサウンドが出せるんだ」ということを発見したんです。バンドの中のキーボード・サウンドというものを知って、ギターよりキーボードの方に興味が移っていきましたね。それからは色々なミュージシャンの影響を受けつつ、ブラック・ ミュージックにはまったり、レゲエを演ってみたり、クロスオーバー・フュージョンやAORとか、本当に色んな音楽を聴いたり演奏したりしてましたね。
それでオリジナルのCX-3にも出会うことになるんですね。
他メーカーからも電子オルガンが色々出てましたが、ハモンドのサウンドに一番近かったのがコルグのCX-3やBX-3だったんですよ。サウンドはもちろん、ドローバーが9本あって、カプラー効果があって、倍音を加算していくといったオルガン本来のスタイルやパーカッションの質感といった所までね。キース・エマーソンだったりチェスター・トンプソンだったり、僕らに手の出せる範囲で好きなオルガニストのサウンドを本格的に鳴らせたのはCX-3しかなかったですよ。今も現役です。
現在でもそのCX-3を弾かれるのは何でしょうか?
色々なオルガンを弾くようになって、「このオルガンはこういう良さがある」ということが解るようになり、シチュエーションに応じて使い分けるようになりました。で、オリジナルのCX-3はハモンドと比べて音が明るいんですよ。良い意味でのライト感があって、ハモンドよりも音がヌケてくる。だからラウドなサウンドにピッタリだし、ギターがいっぱい入っているような時でも音が埋もれることなく聞こえてくるんですよね。
現在のCX-3はいかがでしたか。
まず、見た目が木で良かったなと。オルガンってやっぱり木じゃないと。ドローバーのデザインも良いし、とにかく外観からグッときました。弾いて感じたことは、本当に音がいい!中域の暖かみを大切にしている。あとノイズもちゃんと出ててすごく忠実だなあと。そこからしてオルガンのサウンドなんですよね。キー・クリック音にしてもデジタルとは思えない。鍵盤を弾いた時のクリック音と離した時のクリック音って違いますしね。そのクリック音でタイミングをとって弾いたりするんですよ。鍵盤もすごくいいです。オリジナルのCX-3より良くなっている。
ロータリー・シミュレーターはいかがですか?
普段使う時は、レスリー・スピーカーもしくはマーシャル、ハイワットとかチューブ・アンプに通してマイキングして録るんです。空気を通さないとオルガンの音って感じがしないんですよ。オフ・マイク感だったり真空管を一度通ってから出る質感だったり、そういうのが重要なんです。でもライブだと、どうしてもレスリー・スピーカーが運べなかったりすることもあるんで、CX-3のロータリーやチューブ・アンプのシミュレーションを非常に重宝します。レスリーのアクセルの掛かり方からストップの仕方まで調整できるし。よくできてますね。
森さんにとってオルガンの最大の魅力とは何でしょうか。
オルガンって、何の細工もしないで普通に弾くだけだと味気ないサウンドじゃないですか。強く弾いても弱く弾いても音色変化がないし、リリースが残って音に余韻があるわけでもないですからね。弾いたら音がまっすぐ出て、伸びっ放しで、鍵盤離したら音が切れる…。そういうサウンドを音楽的に表現するには、レスリーのオン/オフだったり、パーカッションの使い方だったり、グリッサンドを駆使して表情を豊かにしたり…というような演奏テクニックが必要になってくる訳です。こういうのってオルガンだからできる奏法であって、ピアノやローズではあんまりないですよね。あとは、音が伸びっ放しになるのでボリューム・ペダルの操作が重要になってくるんです。そこを表情豊かに演奏できなければ、ただピーと鳴っているだけの音になってしまう。ボリューム・ペダルによって、シンセ・パッドのようなフワーとしたサウンドや、エレピのような減衰していくムードも足で操作できるんです。こういう技ができるようになると、こんなにも自分らしく弾ける楽器はないと。そこがオルガンの最大の魅力ですね。
プレイヤーの個性がストレートに表現できると。
キース・エマーソンのように、ボリューム・ペダルを使わずフル・ボリュームで自分の指の演奏能力だけで個性を出す人もいれば、ビリー・プレストンみたいに、ドローバーのセッティングなんて適当もいいとこなんですけど右足のボリューム操作とレスリーの回し方のみでふくよかな表情をつけたりする人もいます。オルガンって、シンセっぽくもなればピアノっぽくもなる。世間で知られているオルガン・サウンド以外のサウンドも出せるんです。例えば、8'のドローバーだけ出せばメロトロン?フルート?みたいなサウンドもできたり、4'のドローバーだけ出してパーカッションを足すとマリンバみたいなサウンドにもなる。自分で音を開発していけるんですよ。「Sun Paulo」っていうトランス系のバンドで演ったんですけど、8'のドローバーだけ出して、同じシーケンス・フレーズを弾きながら徐々に上の倍音を足していく。要はドローバーをフィルターのように使うんです。最初ピポパピポパいってるだけだったのが、段々オルガンのサウンドになっていく。シンセでカットオフを上げていくのと同じようなこともできるんです。色々工夫すれば可能性は無限なんです、オルガンって。