ニューヨークで出会った羽鳥美保と結成したユニット「チボマット」のキーボード&サンプラーとして知られる本田ゆか。その卓越したテクニックと素晴らしい音楽センスは、Yoshimi P-We(ボアダムス、OOIOO)との「yoshimi and yuka」や、篠原ともえらとの「PANIKARAQS」など、数々のユニット活動においても発揮され、2009年からはオノ・ヨーコのバンド、Plastic ONO Bandにショーン・レノン、清水ひろたか、小山田圭吾らと共に参加している。
ソロとしては今年の1月に6年ぶり、3作目のアルバム Heart Chamber Phantoms をリリースし、またこれまでとは違う新たな一面を見せている。ニューヨークに暮らし、その視線を常に世界へと向けている本田ゆかに、コルグmicroSAMPLERの印象や新しいアルバムについて、お話を伺った。
最近、microSAMPLERを使っているとお聞きしましたが、microSAMPLERを面白いと思って頂いたところは、どんなところでしょうか?
まず大きさが気に入りました。簡単に持ち歩ける、というのはとっても大きいです。Holdボタンがあるところ。値段も魅力的ですね。
microSAMPLERを実際に使ってみて、良いと思ったポイントは?
今でも、大きさ(小ささ?)がとっても気に入っています。小さいのに、かなりのメモリ(サンプリング容量)があってびっくりしました。USBでつないで、コンピュータで編集出来るところなど。
サンプラーという楽器と出会ったきっかけは?
嘘のような話ですが、実はまったくの「勘」からはじまりました。「サンプラー」という楽器がある、それは革新的なすごい楽器である、という話を友達からはじめて聞いた直後、偶然にも自分の使ったサンプラーを売ってくれるという人に出会ったのです。運命的なものを感じました。当時は十分な貯金がなく、借金をして買いました。若かったからできた無茶だと思います(笑)。買ってから、マニュアルを読んで、少しずつ使いながら「サンプラー」というものを後から知りました。
もちろん、最初は誰もが初心者なわけですが、本田さんにもそんな時代があったなんて、本当に嘘のような話です(笑)。
これまでにサンプリングした音で、面白いものなどありましたら教えて下さい。
たくさんあって書ききれません。私は、何かを狙ってサンプルする事はあまりありません。音になにか自分の心を引きつける力がある時にどんどんサンプルします。ある程度の数がたまったら、自分でジャムりながらいろいろ組み合わせてみます。その時にまったく別世界からきた音を数週類組み合わせて、しっくりいった時がとっても面白いです。ある音がそれ個体で面白いというよりも、いわゆる生演奏では絶対に不可能な組み合わせの音をマッチングさせていくのが一番の醍醐味です。
多くの人はサンプリングした時点で満足してしまうと思うのですが、そこから一歩どころか何歩も踏み込むことによって、他の人にはない個性が生まれるのですね。本田さんのサウンドの秘密を少しだけ教えて頂いた気がします。
…ということは、曲作りの際は、サンプリングしたデータからイメージを拡げるのでしょうか?
サンプリングが先です。料理でいうと、市場にいって旬の美味しそうなものを買って来て、それを台所のテーブルに並べて何を作るか決める、という感じです。
なるほど。サンプラーというと、素材を揃えるまでの作業が意外と地味で大変なのですが、本田さんの話を聞いていると、とても楽しいイメージが湧いてきます。
そのサンプラーの楽しさとは何でしょう?
時代も国境もカテゴリーも超えたもの同士を組み合わせられる事。どんな異分子同士も接点を見つけていば共存できる、ということが証明出来るところがとても好きです。その接点は、ピッチの移行だったり、タイミングの調整だったり、音の進行方向とかで見つけます。
それでは次に、新譜 Heart Chamber Phantoms について質問します。
6年ぶりのソロ・アルバム…ファンとしてはずいぶん待たされました。
簡単に言うと少し瞑想の時期に入っていました。私にとってはものすごく大きな存在だった母が亡くなり世界観が大幅にシフトしたのを実感しました。その中での自分の存在を改めて考えさせられた時期でした。今は「第二次成長期」に入ったような気持ちです。
タイトルの意味は?
Heart Chamberは「心房」という意味ですが、Heartは「心」Chamberは「部屋(特に寝室)」という意味もあり、心房を(言葉の遊びで)心の部屋にたとえて、そこに住んでいるゴースト、ファントム(亡霊のようなもの?)をイメージして、このタイトルをつけました。私のソロ・アルバムは、自分のその時の心の風景を記録したような曲が多いので、そのことをタイトルで表現したかった。
Yuka Honda
Heart Chamber Phantoms
TZ 7722
輸入盤
2010.1.26 Release
4、5曲目の「Heart Chamber」は4曲目の方はDelayの効いたバスドラ、5曲目の方はリバース再生しているバスドラ?が心臓の音を連想させます。
4曲目の制作過程としては、トランペットのマイケル・レオンハート氏ととてもウマが合うので、それを生かした何かを作りたかったのと、私は普段はプログラミングをしていろいろ仕込む曲を作っている場合が多いので、自分の即興性を生かした音楽を作りたかった。どきどきして、暗いのに美しいものを作りたいと思い、まず心臓の音をイメージしたドラム・パターンを作り、そのうえに即興でエレピでコード進行を書いてのせたのだけど、ちょっと全体のサウンドが「普通』っぽかったので、エレピ・パートを全部裏返してみました。面白い音になったので、そこにトランペットをのっけました。
5曲目は単純に4曲目を全部裏返した物です。表でも裏でも曲になるので面白かった。
えっ!?そうなのですか?? 全然気がつきませんでした。「裏返す」という発想がすごくサンプラー的で面白いです。
頭の中にあるイメージを、曲として具体化していく方法はどんなものでしょうか? 作品はポップなリズムだったり、アンビエントだったり、1つのジャンルに収まらないので、もしかしたら異なる方法を幾つかお持ちでは?と想像していますが。
私の頭の中で音楽のジャンルというのはCDとかを買う時の検索方法として必要な手段なだけであって、創作、演奏時点では、まったく意識していません。とらわれるのは、本当につまらないことだと思います。
頭の中の音のイメージを具体化していくのは、私の脳みそと耳と手がやってくれていて、私はある意味で単なる傍観者のような気分です。どういうことがおきて、どうしてこうなるのか、まったくわかりません。
今回、生のブラスが入っていますが、このあたりの狙いは?
私は昔からホーン系の音が好きで、チボマットの時代から常に多用しています。特にトランペット、トロンボーン、クラリネットが好きです。ニューヨークに住んでいるので最高のプレーヤー達と友達で本当に運が良かったと思っています。
アルバムに参加されている素晴らしいミュージシャン、その中でも特にショーン・レノンさんと清水ひろたかさんが、このアルバムに与えた影響は?
ショーンとは本当にもう長い付き合いなので、心が通じやすく、とてもやりやすいです。音楽というのはとても抽象的な部分があるので、いろんなものがわかり合えているのと、そうでないのでは、全く違う結果が出てしまいます。ショーンの事はとても信用しているので、「この曲はつまらないから、もうやめようかな」とか思っている時に、彼に「それはちょっと待って」と言われて、思い直したような経験が何度もあります。これだけの深い信頼感と長い時間を共有して来た人は、ほんとうに貴重な存在です。
清水君とは数年前に出会いました。私がペトラ・ヘイドンとやっていたバンドに参加してもらい、それ以来、たくさんのプロジェクトに参加してもらっています。(The GOASTT=ショーンのバンド、Plastic ONO Band など)。偉そうなことを言う訳ではないのですが私はただ「うまい」というだけのプレイヤーにはあまりひかれません。ショーンもそうですが、清水君もテクニックがありながら情熱度がとても高い。
どちらからも、直接このアルバムに与えられた影響はありませんが、彼らのような存在は私のやりたいことを力づけてくれます。
音楽が人の心を揺り動かすかは、その音楽の中でミュージシャンたちがどれだけ共振し合って、より強い力を発せるかどうかだと思っているのですが、そういう意味でも本田さんの考え方にとても共感を覚えます。
話は変わりますが、ニューヨークについて質問します。レコーディングをされたBarnスタジオは、どんなところですか?
Barnは山の奥にある、私たちの秘密の隠れ家のスタジオです。夜になると、空が一面星でいっぱいになるような環境のところです。ここに一人でずっと閉じこもって、アルバムのほとんどを作りました。夜中遅く倒れそうになるまでやって、そのまま隣室のベッドで寝ていました。楽しかったです。ショーンに二日、マイケルに一日来てもらいました。あとのミックスは町にもどってからしました。
ニューヨークと日本で、触れることのできる音楽の違いとは?
私はアメリカでミュージシャン生活をはじめたので、実は日本の事情をあまりよく知らないのです。ただ、いつも日本に行って思うことは、ものすごくスタッフがしっかりしていること。これは素晴らしい。予定とかパートかがものすごくきっちり組まれていて、その辺は素晴らしいなと思うのが90%、でも少しだけちょっと苦しいな、と思う時もあります。贅沢な悩みですが、先が見えすぎて、クラシック音楽のようなのりに鳴ってしまうところもあります。アメリカの音楽界は野生のジャングルみたいな感じです。ちょっとめちゃくちゃ。でも勢いはある。最近一緒にやった中では、エリック・クラプトンがすごかった。私はテクニックというよりも、彼のサウンドの素晴らしさに感動しました。太くて抜ける音が出ていました。
クラプトンとクラウス・フォアマン(ベース)はPlastic ONO Bandのオリジナル・メンバーで、今年の1月に再加入したとニュースでは聞いていましたが、すでに共演されていたのですね。
では最後に。これから世界に飛び出したいと思っている若者たちに一言。
私の実際の生活は、たぶん想像されているような華やかなものではありませんが、好きなことがやれているので、そういう意味ではとても幸せです。夢は思い続けていれば必ずかないます。「待つこと」「信じること」「柔軟であること」がキー(鍵)だと思います。
今後のご予定をお願いします。
4月の17日、六本木のSUIPER DELUXEでFIG(ネルス・クラインとのデュオ。microSAMPLERを多用しています)のライブをやります。春中にIF BY YES(ペトラ・ヘイドン、荒木ゆうこ、清水ひろたかとやっているバンド)のミックスを終える予定。秋までにChimera Music(ショーンとやっているレーベル)からFloored By Four (マイク・ワット、ネルス・クライン、ダギー・バウンとやっているバンド)とIF BY YESを発表する予定です。来年には、またTzadikからソロを発表します。
ライブや新作のレコーディングなど、これからもお忙しそうですが、1ファンとして楽しみにしております。ありがとうございました。
